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No.291

黒田記念室

埋もれた仏たち

平成19年1月16日(火)~4月1日(日)

仏教考古学

菩薩形立像

 明治になって日本の考古学が学問として形成されてから1世紀以上がたつ。さらに仏教考古学の研究がわが国の考古学界に認められて久しい。仏教考古学とは仏教思想によってつくられた遺跡・遺構・遺物などを究明することによって、仏教の展開の歴史を明らかにしようとするものである。


経筒(きょうづつ)

  平安時代末期、仏の教えがすたれ世のなかが乱れてくるという末法思想(まっぽうしそう)が流行した。わが国では永承7年(1052)に末法の世にはいると信じられていた。僧侶や貴族たちは再び仏がよみがえる来世、つまり56億7千万年後の弥勒菩薩(みろくぼさつ)の再生に期待し、そのときに備えて経典を書写して経筒におさめ、経塚に埋めることにした。
  京都では藤原道長が寛弘4年(1007)に奈良県金峯山(きんぷさん)に埋納した金銅製経筒(国宝・金峯神社蔵)が有名だが、九州最古の年紀がはいった例は治暦2年(1066)の佐賀県岩倉山経塚出土の経筒で、京都より遅れることおよそ半世紀である。そして出土例のほとんどが12世紀前半に集中している。このころが九州における末法思想の最高潮だったと思われる。それは英彦山(ひこさん)、求菩提山(くぼてさん)、
宝満山(ほうまんざん)、四王寺山(しおうじやま)、脊振山(せふりやま)そして油山といった霊山等の山岳信仰と深い関係が考
えられる。


瓦経(がきょう)

  経筒に入れる経文は紙に書かれることが多かったが、紙では湿気などで長持ちせず、そこで銅板法華経(国宝・1142年・福岡・国玉神社蔵)のような金属製あるいは粘土板に書いた瓦経が考案された。瓦経は粘土板に経文を刻して焼成したもので、経文の行数は10~15行、1行の字数は17字が主である。わが国の最古の例は鳥取県倉吉市の桜大日寺経塚出土の瓦経(1071年)で、福岡市内からは西区愛宕山と西区飯盛山そして東区の筥崎宮境内から出土している。
愛宕山の瓦経は愛宕神社の東南の山麓中腹から窪地にかけて見つかっており、とくに高野孤鹿(ころく)が1954年から十数年にわたって熱心に採集している。一般的に経文は瓦経の表裏面に書かれるが、愛宕山出土分はすべて片面写経である。
  飯盛山のは永久2年(1114)の紀年があり、早くも「筑前国続風土記拾遺」(1830年頃完成)に記載され、1880年代には江藤正澄(えとうまさずみ)が発掘し、1924年には山頂で雨乞いの祭壇をつくるときに見つかっている。こちらの経文は瓦経の表と裏の両面に刻されている。
  筥崎宮の瓦経は1989年に建物建設のため境内を掘ったところ、完全な形のものと破片あわせて36枚分が出土した。大きさや筆跡などは飯盛山のと類似している。


鎮壇具(ちんだんぐ

  鎮壇具とは寺院等の建物を建立するときに、その土地の神を鎮(しず)めて加護を祈る目的で埋められた宝物のこと。奈良時代から行われ、奈良の東大寺大仏殿(国宝・東大寺蔵)や興福寺金堂(国宝・興福寺と東京国立博物館蔵)の例が知られている。
  福岡市内出土例として1961年に市立舞鶴中学の校舎整備工事のおりに見つかった八鋒輪宝(はっぽうりんぽう)と灑水器(しゃすいき)がある。これらの密教法具は江戸時代に藩主の下屋敷を建てるときの地鎮祭のおりに埋められたものと思われ、2005年に福岡市指定有形文化財になっている。


  1988年に呉服町交差点の博多遺跡から出土した金銅製菩薩形(ぼさつぎょう)立像は、中国の唐時代のものと思われ、前年に博多区祇園町で見つかった如来形(にょらいぎょう)立像は朝鮮半島の統一新羅時代のものと思われる。大陸との交易が栄えた博多の街のなかからこのような渡来仏が出土しても不思議ではない。商人の念持仏(ねんじぶつ)として信仰されていたのかもしれない。
出土仏のなかには懸仏(かけぼとけ)がいくつかある。
懸仏は一般的には円形銅板に立体的な像を貼りつけたもので、上部に釣鐶(つりわ)をつけ懸垂して礼拝していた。懸仏は古くからあるが、室町時代からのちは大量生産の小型で粗雑なものが増えている。博多遺跡では今のところ小型のものしか出土していない。


仏具

  仏前供養するときに使用する六器(ろっき)の台皿や飯食器(おんじきき)、さらに卒塔婆(そとば)のミニチュア版や錫杖(しゃくじょう)などが博多区から出土しており、当時のひとびとの信仰の厚さが感じられる。
  以上のように福岡市内および近郊から出土した仏教遺物をみてみたが、これらはほんの一部である。仏教考古学のほんの一歩である。
(田鍋隆男)


錫杖
懸仏 菩薩形立像
八鋒輪宝 灑水器  
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