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No.301

考古・民俗展示室

ふくおか民俗カタログ2-ウシサマ-

平成19年6月19日(火)~平成19年9月2日(日)

三、福岡市域のウシサマ

西区飯氏の《丑様(ウシサマ)》

  飯氏のK家では、たいてい12月最初の丑の日に《丑様(ウシサマ)》を行います。 
  朝、ご主人は柳の枝で箸を作り、今宿(いまじゅく)の浜で渚の砂と海藻を取ってきて《お潮井(オシオイ)》とします。そして田に刈り残した12株の稲を刈り取り《尖棒(ソガリボウ)》で担って(イノウテ)「重たい、重たい」と言いながら戻ります。刈り残す稲は、田の中でも特にきれいに育ったものを選び、穂の部分は丁寧に作った藁の覆いで守ってきました。
  玄関から迎え入れた稲束は《手箕(テミイ)》にのせ《お荒神様(オコウジンサマ)》に供えます。以前は《手箕(テミイ)》を石臼にのせていました。中には稲束のほか、餅、魚、なます、柳箸を入れます。また《お荒神様(オコウジンサマ)》の棚には《お潮井(オシオイ)》を入れた枡と酒を供えます。
  餅は白餅と、小豆の塩餡を表面にまぶしたものを各ひと重ね。魚は《掛魚(カケイイオ)》といい生の魚です。なますは大根と人参の紅白なますに魚のコノシロを入れたものと決まっています。箸は30㎝ほどに切り揃えた柳の枝の両端の皮を剥いたものを2膳作ります。
  準備が整うと《お荒神様(オコウジンサマ)》に向かい柏手を打ち豊作を感謝し、神酒をおろし、なますをいただきます。
  かつて《丑様(ウシサマ)》の日は、親戚などを集め、雑煮を作ったり、御馳走を振る舞ったりする大切な日でした。また《丑様(ウシサマ)》の餅は、切り分けて親戚に配って回るものでした。

西区吉武(よしたけ)の《お丑様(オウシサマ)》

  吉武に生まれ育ったK姉妹によれば、昔の家の《庭(ニワ)》には普段全く使わない大きな《竃(クド)》があって、その上に《お荒神様(オコウジンサマ)》をまつっているものでした。
  日取りははっきりしませんが、《お丑様(オウシサマ)》には「作り行かっしゃあ時」と「帰って来らっしゃあ時」があったといいます。前者は《竃(クド)》の前に《手箕(テミイ)》を置き、1升枡に入れた餅となますを供え《お光(オヒカリ)》をあげました。餅は、その朝搗(つ)いた軟らかい餅で、枡に八分目入れました。「《お丑様(オウシサマ)》に枡をいっぱいにしてもらうごと」だといいます。
  「帰って来らっしゃあ時」も、同様ですが、餅は盆にのせたお鏡餅ひと重ねで、小豆の塩餡をまぶしていました。
  《お丑様(オウシサマ)》の枡の餅やお鏡餅は、家内で切り分け、焼いて食べていました。

早良区田村(たむら)の《丑様(ウシサマ)》

  田村のS家では「2月の《丑様(ウシサマ)》」と「師走の《丑様(ウシサマ)》」をしていました。2月は《丑様(ウシサマ)》がまだ暗いうちに出られるというので、早朝にお祭りをしました。
  供えるのは餅、魚、なます、赤飯、お神酒で、餅は月の数だけ作り、白餅と小豆餡をまぶしたものを半数ずつとしました。これは足つきのお膳にのせました。
  師走も同様ですが、餅は白餅と小豆餅を重ねて枡に入れる《枡餅(マスモチ)》で、縁から餅が垂れ下がると、豊作だといって喜びました。師走の《丑様(ウシサマ)》はその日いっぱい働いた後、夕方帰ってみえるので、玄関の戸を少し開けておくものでした。

城南区片江(かたえ)の《丑の日(ウシノヒ)》

  Yさんが嫁入りした昭和33年は、片江でもまだ《丑の日(ウシノヒ)》をしていました。当時の家には《庭(ニワ)》があり、隅に《お竈(オクド)》があって、上に《お荒神様》がまつられていました。《お竈》には羽釜(はがま)と蒸籠(せいろう)が据えられていましたが、これに火を入れたことは一度もありませんでした。
  《丑の日》をしていたのは寒い時期で《お竈》の上に《お荒神様(オコウジンサマ)》に向けて《手箕(テミ)》を置き、中には1升枡に入れた餅を供え、蝋燭(ろうそく)を灯したといいます。餅は《丑の日(ウシノヒ)》当日に搗いた1升ほどの餅で、塩味の小豆を表面にまぶしていました。
(松村利規)

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