平成19年7月18日(水)~9月2日(日)
郵便の歴史
料金を先払いし、一定料金で配達するという、近代郵便制度は、1840年にイギリスで誕生しました。日本では、前島密(まえじまひそか)の建議によって、明治4(1871)年に東京─大阪間で郵便の取扱が始まりました。翌年には郵便網はほぼ全国に広まり、明治6年5月、それまで認められていた飛脚(ひきゃく)が禁止されて、日本の郵便制度が確立しました。
郵便はがきは、1869年にオーストリア・ハンガリー帝国で、1870年にはイギリスで発行されました。郵便はがきには、国家や公社が発行するものと、民間の印刷業者などが発行するものがあります。前者を官製はがき又は公社製はがきといい、後者を私製はがきといいます。日本では、明治6年12月に初めて内国用はがきが発行されて以来、前者を「官製はがき」と呼んできました。
官製はがきにも絵柄が印刷されたものがあります。日本の絵はがきブームのきっかけをつくった日露戦争(明治37~38年)の戦役記念絵はがきも、官製はがきでした。戦時中には、絵柄入りの軍事郵便はがきがたくさん発行されました。とはいうものの、絵はがきの大多数は私製はがきです。印刷業が盛んだったドイツ、オーストリア、スイスでは、1870年代に私製はがきの使用が認められました。日本では、明治33年に私製はがきの製造と使用が許可されました。
「博多ことば」絵はがき
標準語付きの「博多ことば」絵はがき |
日本で、私製はがきを使えるようになった時期は、写真を印刷する技術が普及した時期でもありました。また、鉄道網がのびて、遠隔地への旅行が格段に容易になった時期でもあります。全国各地で、観光名所の写真を印刷した絵はがきが発行され、絵はがきを専門に扱う販売店もありました。福岡・博多でも、さまざまな名所はがきが発行されました。
「訛(なまり)は国(くに)の手形(てがた)」ということばがあります。方言や訛から、その人の出身地が分かるという意味です。今日では、学校での国語(標準語)教育、ラジオやテレビといったメディアの発達、生まれ故郷から遠い土地に転居することが珍しくなくなったこともあり、その地方独特の言い回しや訛はだいぶ薄れてきました。それでも、地方ごとに話し言葉のもつリズムや抑揚に違いがありますし、初めての土地では、意味のよく分からないことばに出会うことも珍しくありません。
現在よりはるかに言葉の地方色が強かった時代は、方言をあつかった土産(みやげ)用の絵はがきも作られました。大正時代から昭和10年代の半ば頃までの間、福岡・博多でも、「博多ことば」絵はがきが作られています。正確にいえば、城下町・福岡の言葉と町人の町・博多の言葉は違います。今回の展示では、一般的に博多弁と呼ばれる福岡・博多で使われている言葉を「博多ことば」としました。
「博多にわか」絵はがき
「博多にわか」絵はがきの封筒 |
博多にわかは、シャレや風刺のきいたことば遊びを楽しむ民俗芸能です。目の部分だけが隠れるにわか面(めん)(半面(はんめん)、目かづら)をつけて、一人または数人で行います。一人で行う「一口(ひとくち)にわか」、数人で行う「掛合(かけあい)にわか」があります。博多にわかは、明治から昭和初期に最盛期をむかえ、職業にわか師も誕生しました。もちろん、使う言葉は「博多ことば」です。
博多にわかが盛んだった時期は、ちょうど土産用の名所絵はがきがたくさん発行された時期に重なります。福岡・博多土産の絵はがきのなかには、博多にわかを印刷したものもあります。
「正調博多節」絵はがき
「正調博多節」絵はがき |
明治時代の中頃、以前からの「博多節(はかたぶし)」に「どっこいしょ」のはやし言葉を入れた唄が全国的に流行しました。別名「どっこいしょ」と呼ばれたこの唄はかなり俗っぽいものだったようです。「博多節」の名でこの俗謡が流布することを嫌った博多の人が、「どっこいしょ」以前の上品で正統な「博多節」を復活させ、「正調(せいちょう)博多節」としました。大正10(1921)年のことです。「博多へ来るときゃ一人で来たが帰りゃ人形と二人連れ」などの歌詞が有名で、「黒田節(くろだぶし)」「炭坑節(たんこうぶし)」とともに福岡の代表的な民謡です。「博多ことば」が盛り込まれているわけではありませんが、歌詞にはふんだんに博多名物が詠み込まれています。
現代「博多ことば」事情
現代は、旅行はもちろん、仕事や進学などのために故郷を遠く離れた土地を訪れる機会がますます増え、それ故にあらためて地方色を意識することが多くなっているように思います。県民気質をテーマにした本も多数出版されています。
「お国言葉」も同様に注目をあびているらしく、近年、標準語圏の若者が、日常会話やメールのなかで、わざと各地の方言を使うという方言ブームとでもいうような現象もあったようです。福岡・博多の例をあげると、川端商店街( 福岡市博多区 )には「博多弁番付」の垂れ幕がさがっています。また、今年に入って、新たに「博多弁シリーズ」絵はがきが売り出されました。旅先からの土産の素材として、「お国言葉」は、古いようで新しく、懐かしくもありながら新鮮な響きをもつものなのかもしれません。
(太田暁子)