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No.312

考古・民俗展示室

やきものに見る中世瀬戸内と博多

平成20年1月22日(火)~4月6日(日)

博多遺跡群と主要産地

やきものに見る中世瀬戸内と博多

 中世博多といえば日宋貿易に代表される対外との交易がすぐに思い浮かびます。発掘調査で出土した夥しい数の中国陶磁は、往時の繁栄を物語っています。交易活動は博多に居留していた中国商人たちが主として営んでいましたが、彼らを支えていたのは中央の権門(けんもん)社寺でした。博多で荷揚げされた品々は、博多周辺で消費された他、特に高級な品々は財力を持った中央の有力者の下へ運ばれ、彼らが賞玩するものとなりました。輸入品の国内流通において、瀬戸内は中央と博多を結ぶ大動脈だったのです。一方、国内で生産された商品はどのようなものが博多へ入ってきたのでしょうか。やきものでは、東播磨や備前など瀬戸内の窯で生産された焼き締め陶器が博多やその周辺の遺跡から出土しています。一見、古代の須恵器と見まがうものもあります。備前陶器には「投げても割れぬ」といわれたすり鉢の他、多種多様な器種がみられます。


権門社寺と博多

 石清水(いわしみず)八幡宮(京都府八幡(やわた)市)は本来宇佐八幡宮(大分県宇佐市)から勧請(かんじょう)されたもので、瀬戸内海を通じて、北部九州と密接な関係にあり、十世紀以降北部九州に勢力をのばしていきました。また、実際の貿易に従事した博多在住の宋人の多くは筥崎八幡宮に神人として従属していました。その筥崎八幡宮と石清水八幡宮とは本末関係にありました。
 このような歴史的背景に合致するかのように、博多遺跡群や大宰府をはじめ北部九州沿海部では、10世紀から14世紀にかけて東播(とうばん)系須恵器や楠葉(くずは)型瓦器(がき)椀など、畿内産の土器類が出土しています。
とくに博多では遺跡群の広い範囲から出土しており、楠葉型瓦器椀の搬入と中国製陶磁器は少なからぬ関連があるものとみられています。
 畿内の一般的な集落に比べ、流通拠点とされる木津川河床遺跡(京都府八幡市)や大物(だいもつ)遺跡(兵庫県尼崎市)では、壷・水注・盤・合子などの奢侈品や大型容器類が目立って出土しています。物資集散地というだけでなく、これらを優先的に入手できる立場にあった者が直接交易に関わったとも考えられています。
 また、草戸千軒(くさどせんげん)遺跡(広島県福山市)に隣接する明王院をはじめ、瀬戸内の水上交通の要衝における律宗寺院との密接な関係は最近特に注目されています。


陶器の生産と流通

 中世陶器窯 須恵器系の陶器は大きく2つに分けられます。
 一つは、須恵器の製作技術を継承する還元炎焼成によるものです。西日本に分布するものは器種が乏しく、甕は長胴型・平底と、丸胴型・丸底の2種を基本とし、若干の壺と多量の鉢があります。兵庫県東播窯は神戸市神出(かんで)窯・明石市魚住(うおずみ)窯を中心とし、西日本だけでなく、九州西北の島嶼部や東日本にも分布しています。特に鉢は西日本で独占状態にありましたが、14世紀を境に生産は激減しています。
 もう一つは、岡山県伊部(いんべ)を中心に生産された備前焼です。鎌倉時代中期以降に酸化炎焼成による茶褐色の陶器に移行し、室町時代に全盛期を迎え西日本一帯に流通しました。

東播系須恵器

 東播系須恵器は神戸市神出(かんで)窯・明石市魚住(うおずみ)窯を中核とした東播磨(ひがしはりま)地域で生産された須恵器で、西日本を中心に広く流通しました。
 神出窯では 片口鉢(こね鉢)を中心に、碗・小皿・甕・瓦など少ない器種が大量に生産されました。平安京法勝寺・尊勝寺造営を契機として1070年前後に成立したとされています。12世紀前半には焼成室床面の傾斜角が緩くなり、製品自体は軟質なものへと変化し、特定の器種が量産されるようになりました。片口鉢を主力商品として西日本全体に供給されました。
 魚住窯は、同じ東播系中世須恵器窯の神出窯より若干遅れ、12世紀中葉に成立したとみられます。より軟質で大量生産に適し、積み出し港に近い立地を生かし、13世紀前半には神出窯を駆逐して西日本最大の中世須恵器生産地となりました。東は鎌倉を中心とした関東地域や西日本全体に軟質の片口鉢・甕を大量に供給しました。広域流通型の片口鉢・甕を主要製品として、在地向けには碗・小皿も生産しました。14世紀前半には硬質の備前窯製品に主役の座を奪われ、14世紀中葉に生産を中止したと推定されています。


武蔵寺経塚出土片口鉢 箱崎遺跡出土椀
京ノ隈経塚出土甕 田村遺跡出土広口壺 武蔵寺経塚出土甕
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