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No.316

黒田記念室

きじ馬と木うそ-九州・木の郷土玩具-

平成20年4月1日(火)~5月25日(日)

2、木うそ

 木うそは、アトリ科に属す野鳥、ウソ(鷽)をかたどったものとされ、太宰府天満宮(だざいふてんまんぐう)をはじめとして、天神をまつる各地の神社で縁起物として作られてきました。参詣した人が、木うそを互いに交換し合う行事がうそ替えで、鷽(うそ)と嘘(うそ)をかけて、一年の嘘を誠と取り替えるなどと言われます。

(1)木うそのかたち

 木うそも、その形状でいくつかのグループに分けてみることにしましょう。こちらは、切り込みの開く向きと、赤い部分(ウソの胸)の位置を指標とします。


グループA【上向き・赤は切り込み外】

太宰府天満宮の木うそ

 福岡県太宰府市。太宰府天満宮では、1月7日の夜、鬼すべの行事が始まる前に、うそ替えが行われています。楼門前の広場に集まった参詣者が「替えましょ、替えましょ」と言いながら、手にした木うそを交換し合います。その中には金のうそが紛れ込ませてあり、それに当たった人はその年の幸運を得るとされます。木うそは、本来うそ替えのために作られたものですが、縁起物、民芸品としても多く販売されています。おもにホオノキなどを素材とし、木の肌を薄く細長く削って鳥の羽(はね)に見立てています。

老松神社(おいまつじんじゃ)の木うそ

 福岡県前原市(まえばるし)。1月7日は、前原の老松神社の追儺祭(ついなさい)で、鬼すべとうそ替えが行われます。木うそは太宰府天満宮のものとほぼ同じです。現在では福引き券を付けたうそを頒布しています。

深江神社(ふかえじんじゃ)の木うそ

 福岡県糸島郡(いとしまぐん)二丈町(にじょうまち)。深江神社の追儺祭は1月15日で、現在では厄年の人たちが家々を回ってお祓(はら)いをし、うそを配っています。かつては神社でうそ替えをしていました。

水鏡天満宮(すいきょうてんまんぐう)の木うそ

 福岡県福岡市中央区。天神一丁目の水鏡天満宮のうそ替えは1月7日。正面に水鏡天満宮の印が押されていますが、これも太宰府天満宮のものと同型です。

住吉神社の木うそ

 福岡県福岡市博多区。1月7日が追儺祭で、鬼すべ行事が行われた後、うそ替えが始まります。住吉神社は、天神をまつる神社ではありませんが、これらの行事が行われてきました。木うそは太宰府と同型で、その正面には住吉宮の印が押されています。

グループB【上向き・赤は切り込み内】

上町天満宮(うえまちてんまんぐう)の木うそ

 福岡市西区。今宿(いまじゅく)の上町天満宮は、1月7日が鬼すべで、うそ替えも行われています。拝殿前には手作りの木うそが並べられ、参拝者はそれぞれが持参したうそと、新しいうそを交換して持ち帰ります。

登立天満宮(のぼりたててんまんぐう)の木うそ

 熊本県上天草市(かみあまくさし)。旧大矢野町(おおやのまち)の登立天満宮では、7月24日の夏祭りにうそ替えが行われます。斜めに切り込みを入れた面に赤い色が塗られているため、あたかも鳥が口を開いているように見えます。

北野天満神社の木うそ

 福岡県久留米市。北野町の北野天満宮では、2月25日にうそ替えが行われます。切り込みが大きく、全面が赤く塗られています。北野のきじ馬の作者としてご紹介した新堀善太郎さんが作っていた木うそかと思われます。

波折神社(なみおりじんじゃ)の木うそ

 福岡県福津市(ふくつし)。旧津屋崎町(つやざきまち)の波折神社では、現在も大晦日にうそが売られますが、かつて1月7日には、うそ替えが行われていました。木うそはおもに地元の青年たちの手作りだったようです。いずれも荒々しい作りで、全面を赤く塗った切り込み部に二本線が引かれ、まさに口を大きく開けた鳥のようです。

グループC【下向き・赤は切り込み内】

唐津天満宮(からつてんまんぐう)の木うそ

 佐賀県唐津市。唐津天満宮の1月7日の追儺行事、オンジャオンジャは、そびえ立つ大松明(おおたいまつ)で知られます。戦前までは、これにあわせてうそ替え行事も行われていました。暗闇で木うそを交換しあう点は太宰府と同じです。斜めに入れられた切り込みは、下に開いていて、まるで人の顔のように見えます。

角埋神社(つのむれじんじゃ)の木うそ

 大分県玖珠郡玖珠町。角埋神社の木うそは切り込みが下に開き、加えて側面も削(そ)ぎ落としたような形をした特徴的なものです。木うその目は、削ぎ落とした側面部分に描かれ、その下には木肌を削った羽がついています。

グループD【切り込みなし】

手取天満宮(てとりてんまんぐう)の木うそ

 熊本県熊本市。上通町(かみとおりちょう)の手取天満宮では、4月25日と10月25日の年2回、うそ替えが行われます。現在はグループAタイプの木うそが使われますが、当館所蔵の昭和7年頃の木うそは、切り込みがなく、三面を斜めに削ぎ落とし、残りの一面の木肌を削って羽のようにしています。

梅安天満宮(うめやすてんまんぐう)の木うそ

 福岡県中間市。梅安天満宮のものではないかと推定される木うそです。番号が貼り付けられていますので、実際にうそ替えに使用されたものでしょう。丸木の一部を削っただけで、とても簡単な作りです。

(2)うそ替え行事

 木うそをいくつかのグループに分けてみましたが、これは必ずしも木うその系統を示すものではありません。一つの神社でも時代によって形がさまざまに変化していることはじゅうぶんに考えられます。
 一方で、すべての木うそに共通するのが表面を削って作り出された羽(はね)の表現です。これは削り掛け(けずりかけ)が変化したものと考えられています。削り掛けとは、木の表面を削って花のように垂らしたつくりものの一種で、今も行われる国東(くにさき)半島の修正会(しゅじょうえ)などでは、たいへん重要視されています。
 うそ替えと同日に行われる鬼すべは、江戸時代まで太宰府の修正会の終わりにあった追儺行事に由来します。つまり木うそは、修正会の儀式に使われた削り掛けがいつの頃か独立し、鳥の姿へと変化したものと考えることができるかも知れません。そしてそれを手にすることで、人々は新年の幸福を得るのです。

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