平成22年9月22日(水)~11月14日(日)
はじめに
身の回りの空間を区切りたい時、私たちは、そこにわざわざ壁を立てずとも簡単な道具、例えば衝立(ついたて)ひとつ、何もなければちょっとした目印を置くだけで、境目が作り出せることを知っています。それでも、そこで何か特別のことが行われていることを示すには、それなりの用意があるに越したことはありません。
幔幕は、そうした役目を専門に担う道具です。行事が執り行われる場を示し、他と区別する大きな布。例えば、町のあちこちでよく見かける紅白幕はその代表で、私たちはひと目でそこがハレの空間であると知ることができるのです。
けれども私たちは、その場であらためて幕の持つ意味を考えることなど、まずありません。何の気なしに一瞥して終わり、というのが普通でしょう。だからといって幔幕を、ただ放っておくのではもったいない。私たちの目をくぎ付けにする、とても素敵な幔幕が、まだあちこちに残されているのですから。
幔幕の意匠
空間をへだて、装飾をするために、横に長く張り渡す広く大きな布のことを、私たちはふつう幔幕と呼んでいます。少々こまかなことを言えば、布を縦に使って縫い合わせたものが幔、横に使ったものが幕、あわせて幔幕です。けれども今や、その違いを気にすることはほとんどないといってよいでしょう。
幔幕には、祭りや祝い事の際、家の入り口に張る門幕や、神社や寺で使われる社寺幕のほか、かつて武家が陣営に張っていた陣幕などがあって、それぞれの紋を入れた比較的シンプルな意匠のものが多いようです。
その一方で、共有の道具として作られた幔幕には、たいへん華やかで、人目を引くものが散見されます。例えば、かつて博多の各町にあった若者組では、それぞれに趣向を凝らした幕を持ち、人が集まる様々な場面で使っていました。今回展示している「金魚図幔幕」と「七福神図幔幕」は、その代表的なものといえるでしょう。