平成25年12月17日(火)~平成26年3月9日(日)
重箱 |
ドンザ |
はじめに
博物館では、資料の寄贈や文化財の調査などで、多くの市民の皆様と接する機会があります。そこでは、資料にまつわる思い出をはじめ、さまざまなお話をきかせていただいています。
印象的なことは、ご家族のことについて話が及ぶと、お話してくださる方が、みな幸せそうな表情をされていることでした。「福岡の人は、なぜ、こんなにも家族に対して愛情深いのだろうか」と、調査の度に思います。
そこで、福岡の人は、いったいどのような心持ちで家族と接しているのか、ということを、博物館資料を用いて伝えることがきないだろうかと考えました。
本展示は、親子のいつくしみあう心や男女のお互いを慕う心が込められたものを「愛のカタチ」として紹介する試みです。
一、いつくしみのカタチー親から子へー
母親にとって、十か月間を同じ身体で過ごした子どもは、特別な存在です。
可愛い子どものために、何かしたいという思いは、手製の玩具や衣類(着物)、成長の節目に行う儀礼を通じて読み取ることができます。
福岡を含む筑前地方のオキアゲをはじめとする節供飾りには、それが顕著にあらわれています。これらの贈り物は、母をはじめ祖母、おばという、子どもとの関係が近い女性の手で作られています。
一刺し一刺し心を込めて作りあげるものには、不思議な力が宿るとされていました。節供飾りの中には、家族だけに限らず、多くの人から数多く貰い受けるほど良いといわれるものがあります。これは、女性たちの手から生み出されたものの数が、子どもを守る力の大きさになる、という考え方によるものと思われます。
西区西浦(にしのうら)の漁家には、漁師として海に出る息子のために、母が作ったドンザ(漁師の仕事着)が保管されていました。腰上げが施されており、成長期に使われていたと考えられます。ドンザには、全体に横方向の刺し子が施されながらも、肩には柿の花文様、袖は、縞の生地に対して二本線が串縫いされています。後(うしろ)身頃(みごろ)には枡刺し、腹部には、狭いながらも十字文様が描かれています。さらに布も、一種類ではなく、縞や無地が使われています。数種類の文様を刺して完成するまでに、どれだけの時間がかけられたのでしょうか。子どもに向けた思いの深さが伝わってきます。ドンザを身に纏い、海に向かう息子の姿は、母の目にとても誇らしく映っていたのではないでしょうか。
さて、子どもが親元を離れるとき、親は、嬉しいような、物寂しいような気持ちになるといいます。特に他家に嫁ぐ娘の場合、傍で見守ることはかないません。娘に陰ながらでも寄り添いたいという親の願いは、子どもに贈った物から伝わってきます。
黒漆に蒔絵が施された五段の重箱は、嫁入りの際に、父があつらえたものです。重箱を納める外箱には、娘の幸せを祈って重箱を贈り、さらにそれが母を亡くした幼い娘への愛情のしるしとして受け継がれたことが記されています。