愛嬌は天下一品 ― 女の面
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狂言面 乙御前 |
狂言面 膨 |
上)能面 小面
下)能面 曲見 |
【小(こ)面(おもて)】や【曲(しゃく)見(み)】といった能の女面も、非常に美しく整った顔立ちにつくられています。表情は、どっちつかずで、角度により、泣いているようにも、また、微笑んでいるように見えます。いっぽう狂言の女面は、愛嬌(あいきょう)ばつぐん。親しみやすい顔立ちです。そもそも、狂言に登場する面をつける女役は、器量が今ひとつという設定です。【膨(ふくら)】は、フェイスラインが三角おにぎりのような下膨れ。けれども目尻を下げ、ちんまりとした口元をほころばせる笑顔は、親しみやすく、また、あでやかささえ感じさせます。
万物に精霊は宿る ― 精霊の面
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狂言面 空吹 |
狂言面 賢徳 |
能には、樹齢を重ねた柳や桜の精霊(せいれい)が登場し、雅(みやび)かつ厳かに舞うという演目があり、主に【皺尉(しわじょう)】の面が用いられます。万物に命を見、自然に神々(こうごう)しさを感じる日本人古来の感性によるものでしょう。狂言の面にも、自然界のさまざまな存在の精霊をあらわすものがあります。【賢徳(けんとく)】の面は、キョロリとした眼があさっての方向を向き、小鼻をふくらませた表情が、笑いを誘います。植物なら、キノコ、動物なら、カニや犬などの精霊の役に用いられます。また、【空吹(うそふき)】は、口笛を吹くように口をとがらせ、おどけたような表情が特徴です。最も知られた役柄は、相撲(すもう)取りに化けて人に近寄る蚊の精霊です。狂言の精霊は、見栄っぱりや威張(いば)りん坊を茶(ちゃ)化(か)して、化けの皮をはいでみせるような痛快な存在です。
猿に始まり、狐に終わる ― 動物の面
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狂言面 狐 |
狂言面 猿 |
能の面では、たとえば百獣の王・獅子でも、【獅子(しし)口(ぐち)】のように、獅子の顔そのものをかたどることはありません。いっぽう狂言の面では、動物の役柄は、そのまま、動物の頭部に似せてつくられます。その代表が猿の面と狐の面です。子猿をあらわすものは、狂言役者が子方(子役)として初舞台をつとめることの多い『靭猿(うつぼざる)』に用いられます。狐の面を用いる『釣狐(つりぎつね)』は、この役をつとめることが出来れば、狂言役者として一人前と見なされる演目です。そのため、狂言役者の修業をさして「猿に始まり、狐に終わる」と言われています。
(杉山 未菜子)
<出品一覧>
1 恵比須 えびす
2 大黒 だいこく
3 武悪 ぶあく
4 祖父 おおじ
5 登髭 のぼりひげ
6 通円 つうえん
7 膨 ふくら
8 乙御前 おとごぜ
9 乙御前 おとごぜ
10 賢徳 けんとく
11 空吹 うそふき
12 白蔵主 はくぞうす
13 猿 さる
14 狐 きつね
出品した狂言面は、すべて、江戸時代の制作。当館蔵。また、比較のために図版を掲載した能面も、すべて当館蔵。