平成28年12月20日(火)~平成29年2月19日(日)
付喪神図
三 空気を読む、世間を見る
私たちを見ているのは、人だけではありません。「お天道様(おてんとうさま)が見ている」とは子供の頃によく聞いた言葉です。世の中には見えない尊い存在があり、太陽のように公正に見ている。だから、人が見ていないところこそ、居住まいを正し、正直にあらねばならない。ここに私たちの先祖が伝えた生活の基本があります。
お天道様のようにいつも私たちを見ているのが「世間(せけん)」です。「罪は許されても世間が許さない」という言葉はよく聞きます。法律などではなく、理屈を超えて強力に私たちを律するものが世間ですが、実は、これも普段は見えない。最近若者が使う「空気」という言葉は世間に近い感覚と言えます。見えないけれど、確かに存在している、これを上手に見ないとKY(空気読めない)などと社交性の不手際を指摘され、付き合いに支障を来すこともあると聞きます。世間では、気配りのもとに、正しい順番で人と接することが必要です。年功序列や不文律が最大に尊重され、贈答、冠婚葬祭などで世間が見えてきます。身近なところでは誰でも経験がある、年賀状の返礼が出せなかったときに感じる不安などがそうです。誰が咎(とが)めるわけでもないのですが、欠礼の不安はけっこうなものです。この不安の原因こそ見えない世間の拘束なのです。普段見えない世間が垣間見える瞬間でもあります。みなさんのまわりには世間はいくつもあります。職場、隣近所、同窓会、親戚、サークルなどです。世間と上手に付き合い、調和を保つことが安寧と豊かさを生む秘訣です。
世知辛(せちがら)い世の中になってきています。見える世界を生きるだけでも大変な時代になりました。見えないものをわざわざ見ようとすることなどは無駄という実利的な方向に、これからは進んでいくような気がします。果たして、眼前の豊かさだけを求めるようになるでしょうか。
ここにひとつの答えがあります。
聞こえない音域など無駄だと省いたCDデジタル音源の隆盛は、かつてのアナログレコード回帰を生み出しました。聞こえていないけれどそれには暖かみがあり、艶やかさがあるということに気づき、聞こえない音域を含んだデジタルハイレゾ音源が生み出されました。実際には聞こえないものに豊かさを見いだした例です。見えないものを見ることも実はこれと同じことです。豊かさと幸せは見えるものだけではないと思います。先祖から伝えられた言葉、生活様式や考え方、に思いを馳(は)せて、見えないものを感じていただければ幸いです。それでは、みなさん、お幸せに。
(福間裕爾)