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No.549

企画展示室3

チベットのマンダラ

令和2年1月21日(火)~9月13日(日)

◇ 後期密教
19 寂静・憤怒百尊マンダラ(寂静四十尊)
19 寂静・憤怒百尊マンダラ(寂静四十尊)

 後期密教は11世紀頃までにインドで成立した思想で、修業のプロセスに男女の性的な要素や感覚のはたらきを取り入れることにより、煩悩(ぼんのう)を一気に悟りの境地に転換しようとするインド古来の考え方(タントリズム)がベースになっています。そのため、後期密教の経典に基づいて描かれた仏画の中には、「明妃(みょうひ)」と呼ばれる妖艶な女性の仏や、男女の仏が抱き合う「父母仏(ふもぶつ)」など、日本では見られない異様な仏が数多く登場します。また日本の明王(みょうおう)に相当する憤怒系の仏(守護尊)の中には、骨や血を描く奇怪でグロテスクな表現も見られます。

 こうした表現は一見過激で誤解を招きがちですが、必ずしもチベット僧が実際に性的な修業をおこない、残酷なことを好んだことを意味するものではありません。父母仏はあくまでも厳格な戒律(かいりつ)(僧侶が守るべき規則)を前提とした観念的なもので、悟りの智慧(般若(はんにゃ))を女性、悟りを得るための方法(方便(ほうべん))を男性に当てはめ、両者が一体になることで修業が完成することを象徴しています。また骨や血といった恐ろしい表現は、僧侶が肉体への執着を絶ち、全身全霊を仏に捧げることを視覚化したものです。

◇ マンダラと須弥山(しゅみせん)
15 須弥山図
15 須弥山図

 チベット仏教の神髄と言えるものがマンダラ(曼荼羅)です。マンダラは古いインドの言葉で「本質を得るもの」と訳され、円のように完全な境地、または多くの仏たちが集う神聖な場所を意味します。日本人にとってマンダラと言えば掛軸などの絵画を思い浮かべますが、本来は僧が「観想(かんそう)」と呼ぶイマジネーションの修業によって脳裏に出現させるもので、仏が降臨する場として地面に描かれた場合でも、供養と祈りが捧げられたあとすぐに壊されました。

 ところでチベットのマンダラには日本の密教とは比較にならないほど多くの種類があり、それぞれが経典に基づいた複雑な意味を持っています。しかし基本的な形は円輪の中に四角形の宮殿が配置されるという点で共通し、こうしたイメージの根源には、古代インドの人々が考えた世界の姿があったようです。

 そのようなイメージをよく伝えるのが須弥山図(しゅみせんず)です。経典によれば須弥山は世界の中心にそびえ立つ四角形の巨大な山で、海水をたたえた円盤(金輪(こんりん))の中央にあり、その周りを太陽と月が巡り、頂上には帝釈天(たいしゃくてん)が住む善見城(ぜんけんじょう)などがあるとされます。平面として描かれたマンダラはこのような世界を真上から見たイメージとほぼ重なります。

◇ 立体マンダラ
17 立体マンダラ
17 立体マンダラ

 立体マンダラは通常平面に描かれるマンダラを立体的にあらわしたもので、修業僧が仏の世界を観想する際の補助として作られたものです。

 最も外側の円は五色(ごしき)の火炎が燃えさかり、聖なる空間に邪悪な者が侵入するのを防ぐ防壁の役割を持っています。その内側には8つの墓場があり、さらに内側に目を向けると、羯磨(かつま)と呼ばれる法具の上に豪華な宮殿が立ち、中には法身普賢(ほっしんふげん)の父母仏を中心とする「寂静(じゃくじょう)・憤怒(ふんぬ)の百尊」が集う様子が表されています。

 寂静・憤怒の百尊は、ニンマ派特有の仏たちで、「チベット死者の書」として知られる経典『中陰聴聞解脱(ちゅういんちょうもんげだつ)』に登場します。僧は死者の枕元でこうした仏たちが次々と現れる様子を語り、その魂がより良い世界に生まれ変わるように祈ります。またチベットの仏教徒もこうした情景をあらわしたマンダラを見ることで死者の冥福を祈り、また自身の来世における幸福を願うのです。 (末吉武史)

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休館日

開館時間
9時30分〜17時30分
(入館は17時まで)
※2024年7月26日~8月25日の金・土・日・祝日と8月12日~15日は20時まで開館(入館は19時30分まで)
休館日
毎週月曜日
(月曜が祝休日にあたる場合は翌平日)
※2024年8月12日~15日は開館し、8月16日に休館
※年末年始の休館日は12月28日から1月4日まで

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