ふくおか発掘図鑑10~ミクロの考古学~
令和元年10月29日(火)~令和2年1月19日(日)
3 製作技法・材質を探る
〇金属製耳環の製作技法
耳環(じかん)は、耳に着ける装飾品で、金・銀・銅などで作られました。また銅で作った芯(材)に金や銀の薄板をかぶせ、まるで金や銀で作ったように見せているものもあります。これらをX線や顕微鏡で見ると、その製作技法がわかる場合があります。写真のように、耳に装着する部分に「しわ」があるものは、金の薄板を貼ったもの、「しわ」が無いのは、水銀に溶かした金を蒸着させた鍍金(ときん)(メッキ)です。
〇ガラスの製作
ネックレスなどに使うガラス製玉類を顕微鏡で観察すると、溶解したガラスを伸ばして作ったものか、棒に巻き付けて作ったものかなど、製作した技法がわかるものがあります。
また蛍光X線で分析すると、材質の違いも明らかになります。元岡古墳群G―1号墳から出土した74点のガラス製玉類のうち、55点がソーダ石灰ガラス、18点がカリガラス、1点が鉛バリウムガラス製でした。
〇布の材質
発掘調査で布が出土することは極めて珍しいことですが、金属器などに付着した布が、錆と一緒になって残ったものが、見つかっています。これらを顕微鏡で観察することによって、布の素材が分かる場合があります。出土した布のほとんどは絹製で、他には麻の紐も見つかっています。絹は、銅剣(どうけん)や銅鏡(どうきょう)などに付着したものです。甕棺(かめかん)などから出土したものが多く、死者の傍らに副葬(ふくそう)するときに、絹織物でくるんで置いたのでしょう。
4 使った痕跡を探る
縄文時代、「切る」道具の代表的なものは、黒曜石の破片でした。黒曜石はガラス質の石で、割ると鋭利な刃物として使うことができます。刃の部分を顕微鏡で見ると、物を切った際についた線状の傷を無数にみることができます。この傷の状態によって、石器で何を切ったか、わかる場合があります。
5 ミクロを見る人々
今回展示した成果の多くは、福岡市埋蔵文化財センターの職員によってなされたものです。同センターでは、このほかにも、製品の材質分析、X線や赤外線による撮影、木製品や金属製品の保存処理などを行っています。また何より福岡市で出土したすべての発掘資料の保存を行っており、その保管量は130万点に及びます。 (米倉秀紀)