文書のうらがわ
令和4年8月30日(火)~ 10月23日(日)
◆「裏を破る」
「裏を破る」といっても、紙を引き裂くわけではありません。土地の財産目録等で多数の土地が記載されている場合、その一部を売却するとなると、手許に残された土地についてはその権利証が必要となり、買主に渡すことはできません。そこで、売却した土地の権利を抹消するために、該当部分の裏側に売却した旨を加筆し、買主の権利を保護しました。この行為を「裏を破る」「裏を毀(こぼ)つ」と称しました。図5は、裏側に売却する3ヶ所の土地を書き上げ、「永代、宝菩提院(ほうぼだいいん)へ沽脚(こきゃく)し畢(おわ)んぬ。後証(こうしょう)の為に裏を破る者なり」と売却先を記し、後日の証拠のために「裏を破る」と記載されています。
◆「裏を封じる」
訴訟等において訴人が提出した文書の内容を、幕府(ばくふ)や大名(だいみょう)の裁判機関等で確認したことを証明するため、受け取った側の担当者が紙の継目の裏側に花押(かおう)(サイン)を書き加えました。この行為を「裏を封じる」と呼びます。
◆裏書安堵(うらがきあんど)
土地の権利の保障を求めた申請書の余白や裏面に、申請内容を認可する旨を記したものを外題(げだい)安堵や証判(しょうはん)と呼びます。南北朝の動乱期に九州で挙兵した足利直冬(あしかがただふゆ)(室町(むろまち)幕府初代将軍足利尊氏(たかうじ)の庶子)のもとには、多くの武士が参集しました。土地の保護を求める武士や寺社に対し、直冬は申請内容をそのまま認めることを申請書の裏側に書き(裏書安堵)、味方の拡大を図りました(図1)。
◆納品書の裏側に領収書を記す
裏書安堵と同様に受け取った手紙の裏に返事を書いて相手に返送することがあります。図6は年貢(ねんぐ)の納入に際し提出された納品書の裏面で、年貢を受け取った東門寺(とうもんじ)政所坊(まんどころぼう)が数量を確認し、照合の印しとして表面の「以上」のかたわらに合点(がってん)を加え、裏面に確かに受け取った旨を記し、年貢の納入者に返却したものです。
本展では、福岡市博物館が所蔵する中世文書を素材に、文書の「うらがわ」の世界を紹介します。裏面に記された内容の意味を考えることで、文書のもつ豊かな内容を読み解いていきます。(堀本一繁)