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No.616

企画展示室1

石里洞秀(いしざととうしゅう)~江戸の福岡藩御用絵師(ごようえし)~

令和6年8月6日(火)~ 10月6日(日)

■はじめに
(出品1)《梅に鷹図(部分)》72歳の作
(出品1)《梅に鷹図(部分)》72歳の作

 本展では江戸時代後期の絵師、石里洞秀(いしざととうしゅう)について紹介します。石里洞秀は福岡藩御用絵師(ごようえし)でありながら、福岡ではなく江戸で御用を務めた人物です。今では有名と言い難い絵師ですが、当時はその画技が高く評価され、晩年には法橋(ほっきょう)に任じられました。法橋とは優れた僧侶や医師、絵師に与えられる称号です。歴代の福岡藩御用絵師でこれを得たのは、江戸時代初期の狩野昌運(かのうしょううん)と小方守房(おがたもりふさ)に続いて、洞秀が3人目でした。いかに高い評判を得ていたかわかります。

 なお石里洞秀という絵師は、初代と2代の2人いたことがわかっています。しかし初代洞秀の遺作は未だ確認されず、黒田家に仕えたかどうかもわかっていません。本展で主にご紹介するのは、晩年に法橋に叙された2代目洞秀(以下、洞秀)です。

 江戸時代の画人伝では初代と2代が混同されることも多かったのですが、1980~2000年代に研究がすすみ、洞秀について多くのことが明らかになりました。さらに近年、当館が収集した洞秀作品から、新たにわかったことがあります。そこで本展では、「これまでにわかっていること」「今回、新たにわかったこと」、さらに「まだわからないこと」を整理し直します。博物館の資料収集活動の成果と今後の展望について市民の皆さまと共有しながら、改めて福岡ゆかりの絵師を紹介し、その作品を楽しむ機会にできれば幸いです。

■活躍年代と生没年
(出品5)《石里洞秀肖像(部分)》
(出品5)《石里洞秀肖像(部分)》

 石里洞秀は初代洞秀に養子として迎えられ、初代が没した天明5年(1785)から寛政4年(1792)までの間に「洞秀」を名乗りはじめたことがわかっています。晩年の作品にもその署名が残り、文政10年(1827)2月5日に没するまで「洞秀」と称したと考えられています。

 享年および生年は不詳とされてきましたが、行年書(ぎょうねんがき)といって絵に制作時の年齢を記すことがあり、洞秀の場合その最高年齢が72歳(出品1)であることから、これを享年と仮定して、生年を宝暦6年(1756)頃に求める仮説が有力でした。

 近年当館が収集した「石里洞秀肖像」(出品5)は、洞秀を供養するための肖像画で、洞秀の没後20年目に弟子筋の者が描いたようです。画中の墨書をよくみると、没年月日や法号と共に「行年七十四歳」の文字があります。つまり享年は74歳。これを素直に没年から逆算すると、生年は宝暦4年(1754)に求められます。

 もちろん当時の「年齢」に対する感覚は現代と大きく異なります。誕生日ではなく正月に年をとるという「数え年」の考え方もそうですし、人生の節目ごとに年齢加算を行い、自称年齢を上げる人がいたことも知られています。ひとまずわかったことは享年で、洞秀の生年は新仮説としておきましょう。

■名乗りの変遷

 洞秀の名は「美敬→美之→美章」と変化したことがわかっています。少々ややこしいのですが「洞秀」は号です。これは代々受け継ぐこともできる、絵師の表看板のようなもの。これに対し、より個人的かつフォーマルな名乗りが「美」からはじまる名です。「洞」も「美」も、洞秀が入門した駿河台(するがだい)狩野家の通字(とおりじ)で、その門に学んだ絵師の名に用いられます。本展で紹介している絵師では尾形洞谷(とうこく)美淵(1753-1817)が同門です。また洞秀は斎号(さいごう)も用いています。本来はアトリエ名のようなものですが、単に別号として用いる場合も多く、洞秀は若い頃に「芝蘭斎」、後年には「蕙心斎」と称したことがわかっています。

 さて、洞秀の初期の名「美敬」の落款(らっかん)を伴うものは、これまで2例しか報告がありませんでした。本展では近年見つかった「美敬」落款作例2件(出品14・19)を公開します。まだ拙い表現がみられますが、初期画業をひもとく今後の貴重な手がかりといえます。

 なお先行研究では、洞秀は画業の最初期に「洞与」と号した可能性が強いとされ、「洞与美敬」落款作例が1件報告されています。当館および福岡周辺には「洞与」落款作例がなく、その収集や研究は今後の課題です。

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休館日

開館時間
9時30分〜17時30分
(入館は17時まで)
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休館日
毎週月曜日
(月曜が祝休日にあたる場合は翌平日)
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