展示・企画展示室

No.620

企画展示室3

土の中のアクアリウム

令和7年4月15日(火)~11月9日(日)

土の中のアクアリウム
龍泉窯系青磁 盤(貼花文)

 「アクアリウム」と聞くと何を思い浮かべますか?水族館だという方もいれば、熱帯魚をはじめとした魚が泳ぐ水槽(すいそう)をイメージする方もいるかもしれません。共通していえるのは、そこには「生きた魚」や「水」が連想されるということではないでしょうか。
 本展は「土の中」のアクアリウム。そうです。展示には、「生きた魚」も「水」もありません。水の世界とは真逆の「土の中」すなわち「遺跡」から見つかった魚に関連する資料を、水槽に見立てた展示ケース内でご紹介します。紹介する資料は、漁労具(ぎょろうぐ)や魚骨、魚を描いた陶磁器など福岡の人がさまざまな形で魚と関わってきたことを示すものばかりです。これらはいろいろな「魚」に触れる機会に恵まれた福岡ならではの出土品の一つであり、福岡を特徴づける資料といえます。近年の発掘調査で見つかるまで、長い間、土の中で眠っていた魚たちが、展示ケース内を泳ぐ姿を、どうぞご鑑賞ください。

食材としての魚
土の中のアクアリウム
使用痕がある青磁皿
(12世紀中頃~後半)箱崎遺跡6次
無数の傷跡が見られる。

 福岡では、古くは縄文時代の集落跡から石銛(もり)が見つかっています。銛は槍(やり)のような道具で、魚を突き刺して捕まえるために使われたと考えられています。また動物の骨で作った釣針や網を沈めるための石・土製の錘(おもり)もあり、釣漁(つりりょう)や網漁(あみりょう)も盛んだったようです。
 古墳時代頃から福岡では、漁労具の出土量の増加に加え、規格化された釣針やタコツボなども見られるようになり、漁業がより盛んになったと考えられています。福岡では、古墳時代頃から塩作りが行われるようになるため、魚の長期保存ができるようになります。このことが漁業が盛んになったことと関係しているのかもしれません。
 では、どのような魚が食べられていたのでしょうか。遺跡からは食べ物残滓(ざんし)(食べカス)として、タイやマグロの骨が出土します。中には解体され調理された痕跡として、エラのあたりに多くの刃物傷がついている骨も見つかっています。縄文時代から中世にかけての人骨に残されたタンパク質の分析では、海産物と陸上植物を主なタンパク源にしていたという結果も得られており、陸上の動物はあまり食べられていなかったようです。「食の魚離れ」が指摘されている現代人よりも、かつての福岡の人は魚を食べていたといえるでしょう。

デザインとしての魚

 福岡では古くから食材としての魚に関する資料が確認される一方で、デザインとしての魚を福岡の人が多く目にするようになるのは、12世紀以降です。このときの魚は輸入陶磁器の表面に文様(魚文)としてみられます。当時の日本では、陶磁器を作る技術がなく、主に中国から輸入していました。中国で表現される魚のほとんどは淡水魚です。中国語で魚は発音が「余(ユ)」と同じことから、ゆとりのある暮らしと結び付けられることがあるほか、一度にたくさん産卵するため子孫繁栄に通じる縁起のよい文様とされ、器にも描かれていたようです。
 国外産陶磁器の中でも魚文があるものは国内の他地域では出土することが少ない比較的珍しい出土品です。しかし福岡は、博多が国際貿易港として栄えていたこともあり、陶磁器が出土し、その中には魚文の器もあります。また港周辺だけでなく、内陸の集落からも一定数見つかり、福岡では比較的普及していたようです。見つかった器を観察すると、表面に無数のキズが見られます。これは当時の人が使用したときに付いたものと考えられています。当時の福岡の人が魚文の意味まで理解していたのかは分かりませんが、特殊な貴重品ではなく、生活に溶け込んだ身近な品物として使われていたと考えられます。
 これら魚文は中世を通して確認されます。そのため、福岡ではさまざまな表現技法の魚を見ることができます。鉄を含んだ顔料を筆を用いて描く鉄絵、輪郭をヘラなどで彫刻のように「刻み」文様を描いた「刻花文(こくかもん)」、「印(スタンプ)」を押して文様をつけた「印花文(いんかもん)」、別の粘土を「貼り」文様をつけた「貼花文(ちょうかもん)」などさまざまです。ここでいう花は模様を指すので、魚文でも「刻魚文」とは言いません。また、タイ産の鉄絵や朝鮮半島産の象嵌(ぞうがん)技法の魚文なども福岡には持ち込まれます。
 このように福岡では12世紀頃から約400年間、多くの技法で描かれた国外産の魚文が確認されます。技法の違いによって生まれる、個性豊かな表情の魚は福岡に暮らす人々の目を楽しませていたことでしょう。
 17世紀以降、福岡でも陶磁器生産が盛んとなり、高取焼など国内産陶磁器の中にデザインとして魚が取り入れられるようになります。このときの魚は、魚形の小皿など、魚を形どったものもあり、これまでの国外産の陶磁器の中で用いられてきたデザインとは少し趣が違っています。また、器だけに限らず、鏡や書道の際に使う水滴など、日常で使用する品物にも広く採用されるようになります。さらに、魚以外の水の生き物を表現したものも増えてきます。
 これは、福岡では、16世紀まで主流だった国外産陶磁器内に見られた魚のデザインをそのまま真似るのではなく、自分たちなりにデザインして、暮らしの中に取り入れようとしたことを意味するのかもしれません。

(大森真衣子)
  • 貼花文の魚
    (13世紀中頃~14世紀初め)
    粘土で作った魚の文様を器の表面に貼り付けて表現します。立体感があり、文様の存在感か増します。(写真は龍泉窯系青磁)
  • 印花文の魚
    (12世紀後半)
    スタンプを押して文様をつけます。鱗や水草などの細かい描写が可能で、量産も簡単です。(写真は龍泉窯系青磁)
  • 刻花文の魚
    (12 世紀中頃〜後半)
    輪郭を斜めに幅広く削り、溜まる釉薬の濃淡で文様を浮き立たせます。片切彫りとも呼ばれます。(写真は龍泉窯系青磁)
  • 鉄絵の魚
    (12世紀前半)
    文様は鉄を含んだ顔料で、描かれています。筆を用いて描くため、製作者の筆運びを味わうことができます。(写真は磁州窯系陶器)
  • 青花(染付)の魚
    (16世紀)
    コバルトが主成分の顔料で青色の文様を描くものを青花と言います。一部に辰砂を用い朱色にすることもあります。(写真は景徳鎮青花)
  • 鉄絵の魚
    (15世紀)
    福岡では中国産以外に、タイのスコタイ窯産の鉄絵の魚文も確認されています。(写真はタイ陶器)
  • 象嵌の魚
    (14世紀)
    文様が彫られたスタンプを押し、凹ませた部分に器の土とは違う土を入れ込み、土色の違いで文様を描いています。(写真は高麗青磁)
  • 鉄絵の魚
    (14世紀)
    輪郭を描くのではなく、魚全体を着色することで表現しています。(写真は吉州窯系陶器)
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開館時間
9時30分〜17時30分
(入館は17時まで)
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