牡丹図(部分)
はじめに
梅の花がほころびはじめ、日も長くなり、少しずつですが春の訪れを感じるようになってきました。やがてソメイヨシノが開花し、花々が爛漫に咲き誇る季節も近づいてきます。日本の気候は春夏秋冬がはっきりしており、四季折々に咲き誇る草花や花木などを楽しむことができます。また、季節にあわせて草花を庭や植木鉢などで育て、日々成長する姿を楽しみにしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
福岡市では、令和8年3月22日(日)から26日(木)にかけて、花とみどり豊かな街の魅力を世界へ発信する「Fukuoka Flower Show 2026」を、福岡市市植物園を会場に開催します。
本展では、これにあわせて江戸時代における人びとの暮らしと花との関わりを取り上げます。「花とくらす」「花をあしらう」「花をえがく」の3つのコーナーに分け、着物や身の回りの道具類、屏風絵や錦絵といった絵画資料などから、四季を通じて花に親しんだ江戸時代の人びとの姿を紹介します。
美人観桜図
藤蝶文様筥迫
花とくらす
毎年、3月3日は雛人形を飾るなどして、女の子の幸せを願う桃の節供(上巳(じょうし)の節供、雛まつり)、5月5日は五月人形や鯉のぼりなどを飾って男の子の健やかな成長を祈る端午(たんご)の節供として知られています。端午の節供は菖蒲(しょうぶ)の節供とも呼ばれるように、日本の年中行事(毎年、決まった季節や時期に行われる行事や祭礼などのこと)には花と関わりのあるものが多く、古くから人びとが四季折々に咲く花を通して季節の変化を感じながら生活してきたことがうかがえます。
江戸時代になると、花を観賞し愛でるだけでなく、自ら栽培すること楽しむ「園芸」が盛んになります。その担い手は、徳川将軍家、諸大名、旗本をはじめとする武家や公家などにとどまらず、広く庶民にまでおよびました。
自らの屋敷に庭園をしつらえ各地から集めた花木や草花を植える、珍しい品種の花を植木鉢で育てて他人と優劣を競い合う、梅や桜といった季節の花の名所を訪れるなど、園芸文化が浸透していくとともに、江戸時代の人びとの生活には花が深く根差していきました。
花をあしらう
身近な草花は、調度品や生活道具の装飾、着物の刺繍など身に着けるものにモチーフとして用いられてきました。素材となる草花の種類は様々ですが、特に好まれたのは、吉祥(きっしょう)や季節を象徴するものでした。「吉祥」は、めでたい事柄を意味します。この吉祥を表す花の代表的なものに、お正月の装飾などにもよく用いられる「松竹梅」で有名な梅があります。梅は寒い時期につぼみをつけて花を咲かせるため、生命力を象徴するものとして、ハレの日の衣装や道具などによくあしらわれます。そのほかに、吉祥を表す柄として知られる菊は、延命長寿(えんめいちょうじゅ)の薬草として中国から渡ってきたことから、長寿を表すモチーフとしても好まれてきました。
季節を象徴する草花として知られるのは、春を代表する桜から、藤(ふじ)、菖蒲、蓮(はす)と移ろい、秋は萩(はぎ)、女郎花(おみなえし)、桔梗(ききょう)楓(かえで)に薄(すすき)、冬には椿(つばき)や南天(なんてん)など様々な種があります。日本人はこれらの草花を愛でることで季節の変化に親しんできました。これらの草花をあしらった道具や衣類は、使用時期をその花が咲く時期に限定し、あるいは先駆けてさりげなく取り入れることを粋として、人びとは自然と調和した日常生活を楽しみました。
花のモチーフで季節を楽しむ文化は、現代にも続いています。
花をえがく
花や草木などの植物が登場する絵画は、中国においては唐時代に見えはじめ、北宋時代になって画題として成立したと考えられています。
日本では、奈良時代から平安時代にかけて受容されましたが、本格的に植物が主題として描かれるようになったのは水墨画が広まった室町時代になってからでした。桃山時代には城郭建築の巨大な空間を区切る屏風絵や襖(ふすま)絵において松や牡丹(ぼたん)などの植物を主題とする絵が多く描かれました。
江戸時代に入ると伝統的な様式を受け継ぎつつ、西洋画の影響をうけて写実的な表現が追い求められるようになりました。また、江戸時代後期になると博物学(動物や植物、鉱物などに関する学問の総称)の進展により、研究を目的とした精緻な植物画(写生画)も制作されました。
梅牡丹鴛鴦図屏風
(髙山英朗・小室 綾)