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No.269

考古・民俗展示室

那津官家とその時代

平成17年11月1日(火)~平成18年1月15日(日)

Ⅲ 那津官家の時代を考える  ―6~7世紀の地域社会―

 史料の上では那津官家が設置された6世紀から7世紀は、対外的には朝鮮半島では新羅(しらぎ)と百済(くだら)の勢力拡大し、伽耶(かや)の国々が衰退していきます。倭国は百済との繋がりを強めていくなど、朝鮮半島との対外関係に変化が生じてきます。国内的には九州や東国などのミヤケの設置の状況など、大和朝廷の地域支配が強化されていったことが推測されます。
  一方、考古学的には前方後円墳の衰退や群集墳の増加などがこの時代の現象として見られます。


 対外関係の変化

 6世紀になると、伽耶の国々が新羅と百済の勢力拡大により、衰亡の道をたどります。この間、対外関係についても大きく変化していきます。那津では、5世紀代に多く見られた半島系の遺物も6世紀になると、減少する傾向にあります。しかし、6世紀後半以降は早良平野を中心に新羅系、百済系の遺物が古墳の副葬品として見られるようになります。これらの被葬者は半島に関わりが深い人と考えられ、彼らにより様々な技術などがもたらされたのではないかと考えられます。


 群集墳の増加

 福岡市域は1,800基近い古墳が確認されていますが、その大半が6世紀以降の群集墳と呼ばれるものです。群集墳は5世紀の終わり頃から6世紀にかけて造られるようになり、数基~十数基の群を為します。主に横穴式石室が埋葬施設で、副葬品には武器や装飾品などの他、須恵器などの容器が見られるようになります。容器には食物を入れたものもあり、死者に対する死後の食物を供えるということで、朝鮮半島などの影響を受けた新たな葬送(そうそう)儀礼(ぎれい)と考えられています。6世紀中頃から前方後円墳が衰退していく一方で、群集墳は6世紀後半以後急激に増加していきます。このことは古墳に葬られる人や古墳を造る人たちに変化があったことを窺わせるものです。


 新たな技術の導入

 国内での鉄生産は5世紀から6世紀にかけて大きな画期があったとされます。福岡市内ではこの時期の製鉄炉は確認されていません。しかし、早良平野の古墳では、製鉄の時に発生する鉄滓(てっさい)を供えるものがあることから、この時期には鉄生産が始まった可能性があると考えられています。古墳への鉄滓供献は6世紀後半から7世紀にかけて、早良平野から糸島半島の地域で増加することから、これらの地域で盛んに鉄生産が行われていたと考えられています。当時、鉄は重要な資源であり、鉄生産が盛んであった吉備(きび)の白猪(しらい)屯倉は鉄の掌握のために置かれたミヤケと指摘されています。そのことからも早良平野から糸島半島での鉄生産の増加も那津官家と関連する可能性が考えられます。


 緊張の対外関係

 那津官家の設置以後、日本書紀には宣化2年(西暦537)の大伴磐(おおとものいわ)、狭手彦(さでひこ)の伽耶の派遣を初めとして、たびたび伽耶や百済の支援のために兵を派遣した記事が見られます。那津は朝鮮半島の伽耶や百済の支援のための拠点となっていたようです。推古(すいこ)10年(西暦602)には筑紫に派遣された来目(くめ)皇子が嶋郡(しまぐん)に兵を置いたという記事が見られます。近年、九州大学伊都キャンパスの調査で行われた元岡・桑原遺跡群では多数の古墳が発見されました。特に70基余り見つかった後期の群集墳からは多数の武器や馬具、装飾品、鍛冶(かじ)道具などが出土しており、兵の駐留とも関わるものと注目されています。


 那津官家から大宰府の時代へ

  すべてをミヤケと関連付けることはできませんが、那津官家の時代にこの地域の古墳や対外関係等に大きな変化が見られました。7世紀に入ると、外国使節の対応などで筑紫(つくし)大宰(たいさい)の記事が見られるようになります。筑紫大宰は後の大宰府に繋がるものですが、筑紫大宰の置かれた場所も那津もしくはその周辺と考えられています。この時期、比恵遺跡の周辺の那珂遺跡では牛頸窯(うしくびよう)産の瓦が供給されており、そのことと関連しているのかも知れません。那津官家と関係はまだよく分かっていませんが、那津官家の時代に起こった様々な事柄は、朝廷の律令国家として体制整備と大宰府の成立に至る序章と言えるものだったのではないでしょうか。
(菅波正人)

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