平成26年6月3日(火)~8月3日(日)
7 小面(こおもて) |
1 平太(へいた) |
いろいろな能面
能の世界の主人公は、いったいどんな存在なのでしょう。その役柄は、意外なほど、たくさんの種類に分かれています。絶世の美男美女、おごそかな神さま、神秘的な仙人、迫力のある鬼神(きじん)、すごみのある怨霊(おんりょう)など、実にさまざまです。よって、演じる役者が役柄に成りきるために重要な役割を果たす能面も、それだけたくさんの種類があります。
◆男 ―
青年をあらわす能面の代表は、中将(ちゅうじょう)と平太(へいた)です。青年が登場する能は「修羅能(しゅらのう)」が中心です。修羅とは、戦いにあけくれた人が死後に堕(お)ちる地獄のこと。その地獄から武将の幽霊が人の世に姿をあらわし、生きている人にいろいろ訴えるのが修羅能で、多くは源平合戦に題材をとっています。源氏の武士をあらわす平太は日焼けしたいかつい顔、いっぽう、平家の公達(きんだち)をあらわす中将は眉をひそめた愁(うれ)い顔です。中将は光源氏などの美しく雅(みやび)な貴公子にも用いられます。
◆老いた男 ―
能面には、老爺(ろうや)をあらわすものが、意外なほどたくさんあります。それらは、「○○尉(じょう)」と呼ばれます。能に登場する老爺は、単なるお年寄りなのではありません。神さま、樹木や花の精、あるいは名だたる武将の幽霊など、人ではない存在が人前にあらわれる際にとる仮の姿であることが多いのです。それは、古来、長生きした人は神さまに近い存在で、そのシワシワ顔も、尊いものだと多くの人が感じていたからでしょう。
5 長霊癋見(ちょうれいべしみ) |
12 般若(はんにゃ) |
龍神、雷神、天狗(てんぐ)などが登場する能も数多くあります。これらは、人々の世界に、時には恵みを、時には脅威をもたらす大自然を象徴する存在です。これらは、能面の種類として「鬼神面」と呼ぶことが多いです。鬼神面は、口を大きく開けたものとぎゅっと閉じたもの、つまり「阿形(あぎょう)」と「吽形(うんぎょう)」に大きく分けることができます。これは、仁王(におう)さんの像や狛犬(こまいぬ)などと共通する特徴です。
◆女 ―
小面(こおもて)は、代表的な若い女面。目鼻口が真ん中に寄り、額(ひたい)が広く、頬(ほお)や顎(あご)がふっくらとしています。曲見(しゃくみ)は、年長(とした)けた女性の面。口の端が下がり、頬に窪(くぼ)みがあらわれています。女性の老若をあらわす工夫は、目のつくりにもあらわれます。小面の目は、黒目の部分が四角く作られており黒目がちに見えますが、曲見は黒目を円く作るので、うるんだ目に見え、寂しさや悲しさを強く印象づけます。神さまの仮の姿としての老女をあらわす姥(うば)では、伏せたまぶたの内側全体をくりぬきます。
◆怒れる女 ―
能面といえば般若(はんにゃ)を思い浮かべる人も多いことでしょう。角(つの)を生やし、大きく見開いた目はあやしい光を放ち、牙をむく恐ろしい形相です。般若は、もともと人ではない鬼女、そして、すさまじい怒りや恨みに我を忘れて鬼と化してしまった女性の両方をあらわします。人を越えた力を秘めた女面のかたちは、恐ろしいながらも独特の魅力をそなえています。
(杉山未菜子)