平成26年9月30日(火)~12月7日(日)
はじめに
私たちの暮らしの中には、数え切れないほどたくさんの種類の道具があり、いろいろな場面で、さまざまな役割を果たしています。私たちの役に立つということは、道具が道具であるために最も大切なことです。何かの目的に役立てるために、私たちは道具を生み出し続けてきました。道具は、それが生まれたときから工夫のかたまりでした。
この展示では、私たちが生み出してきた数多くの道具の中から、ふだんの生活であまり見ることがなくなった、ちょっと昔の道具を中心に集めてみました。知っている人には当たり前の道具であっても、知らない人にとってはそれが何に使うものか想像するのも難しい、というものです。
これらの道具をはじめて目にする方々は、実物をよく観察して、何に使うものかじっくりと考えてみてください。見慣れぬ形の中に、いくつものヒントが隠されているはずです。工夫がこらされた道具から、先人が生み出したさまざまなアイデアと、そこに込められたささやかな願いが見えてくることでしょう。
このリーフレットでは、展示されているさまざまな道具の中から、いくつかを選んで、簡単に解説を加えることにします。クイズとしても楽しめるよう、写真に道具の名前は記していません。いわゆる「ネタバレ注意」のリーフレットですので、ご用心。
では、はじめることにしましょう。
1 暑い夏の日のために
円錐(えんすい)形をした金属製の道具です。材料はトタンのように見えます。針金でできた把手(とって)がついていて、口の部分には木製の栓がはめ込まれています。何かを入れる容器でしょうか。胴と底のつぎ目は、しっかりと蝋(ろう)づけされています。蝋づけは、蝋と呼ばれる溶けやすい合金を使って金属を接着する方法です。つぎ目にすき間があってはいけないのでしょう。
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これは水筒の一種、それも麦茶を冷やすという特別な目的のために作られたものです。冷却器といってもよいでしょう。昭和30年代に電気冷蔵庫が普及する以前、氷屋さんから購入する氷を除けば、夏にもっとも冷たいのは、たいてい井戸の水でした。スイカや野菜を井戸水につけて冷やすのは、いたるところで見られる風景でした。この冷たい井戸水を使って、麦茶を冷やそうというのです。
全体が金属で作られているため熱が逃げやすく、よく冷えた麦茶ができそうです。トタンは鉄に亜鉛(あえん)をメッキしたものです。亜鉛は人体に有害ですから、ふつうは水筒に使ったりしないのですが、かつてはブリキ(これは錫(すず)メッキ)の代用材として、こんな使われ方をしたこともあったようです。
木の栓でしっかりと口を閉め、把手につけたひもで井戸の中に垂らします。ものによっては、胴の部分にトンネルのような穴を開けて、冷却効果をより高める工夫をしたものもありました。
2 魅惑のバイブレーション
球をギュッと押しつぶしたような丸い部分と、赤ちゃんのガラガラのような部分が金属の棒でつながっています。どちらも表面は木製で、つやのある美しい仕上げが施されています。ガラガラ状の部分には、ぐるぐる回るクランクハンドルがついています。ガラガラの中には何らかの機械の仕掛けが隠されているようです。左手でガラガラの把手を握り、右手でハンドルを回すと、ブルブルとした小気味よい振動が手に伝わってきます。
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この道具に貼られた金属プレートには「最新式 家庭用按摩(あんま)器」と書かれています。つまりマッサージ器というわけです。そう言われてみれば、現在でも使われている電動式のハンディーマッサージ器とほとんど同じ形をしていることに気づきます。電動式のマッサージ器は昭和30年代頃から一般に普及していきますが、これはそれ以前の、おそらく昭和のはじめ頃のものとみられます。
振動をおこすしくみは複雑なものではありません。まず歯車のはたらきによって、ハンドルの回転運動が中心を貫く軸の回転に置きかえられます。軸の先には重錘(じゅうすい)(おもり)が取り付けられていて、それがアンバランスな回転をすることで強い遠心力がはたらき、球状の先端部が振動するわけです。携帯電話のバイブレーション機能と同じ原理です。ただし、ハンドルの回転を加減することで、振動の強弱を自在に操ることができるのは、手動式ならではです。