平成26年9月30日(火)~12月7日(日)
3 失せ物を引き寄せる
先端が「の」の字形のカギになった鉄の棒を、平たい木と石で挟み込んだ道具です。片方の端は小さな環になっていて、何かをつなぐことができそうです。全長は63センチメートル、木と石はそれぞれ長さ20センチメートル、幅10センチメートルほどの大きさです。
木と石にはひもが幾重にもわたってしっかりとかけられていて、簡単には外れそうもありません。木の部分には、ひもが動かないように浅い溝が掘られています。
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これは漁師さんたちが海底に落とした網などを探すのに使った道具です。西区玄界(げんかい)島では「サレ」という名前で呼ばれていました。環にロープをつないで海に放り込むと、石がおもり、木がうきの役割を果たし、写真のように鉤が下を向いて着底します。この状態で海底を引っぱると、なくした網がカギの部分に引っかかり回収できるというわけです。
ふつうでは見ることができない海の底のようすを、漁師さんたちは古くから、手に伝わる感触を通して感じ取ってきました。そうした人々が使うことで、この道具はまるで海底の状況を教えてくれるセンサーと化すのです。
4 動力化の道のなかばで
長い木製の柄の先に、何やら金属製の部品が色々ついています。とくに目立つのは、まるでハサミのような「V」字形の部分と、柄のなかほどにあるハンドルでしょうか。ハンドルからのびるワイヤーは、滑車を通して「V」字部分の横についた弓形の部品につながっていて、この部分を操作することができそうです。「V」字の部分を横から見ると、どこかソリのようにも見えます。
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これは稲刈り機です。もちろん人力で動かします。柄を押して田んぼの上をすべらせ、「V」字部分のすき間に稲の株を入れてそのまま押し切るというものです。ただ押すだけではどうしても刈り残しがでてしまいますので、ハンドルを引いて弓形の補助鎌を動かし、前後ではさみ切ることもできます。数株をいちどに刈り、稲束ができたところで横に倒すという作業を繰り返していきます。
人力稲刈り機の基本的なアイデアは、戦争中の労働力不足に対する懸賞募集から生まれたといわれます。腰をかがめての重労働であった稲刈りが、立ったままでもできてしまう画期的なもので、改良が重ねられ、昭和30年代には全国に普及しました。しかし、刈り取った稲束は人がかがんで集め束ね直さなければ干せません。そこに刈り取りと結束を一度にやってくれる動力式バインダーが登場します。昭和40年代の前半のことでした。それから程なく、この道具は姿を消すことになったのです。