平成26年12月9日(火)~平成27年2月22日(日)
南区卯内尺古墳 石棺内人骨出土状況 |
人骨・どくろ・骸骨はどちらかというと薄気味悪いイメージがあります。それは人骨に対して「死」のイメージが付加されているからでしょうか。誰もがその体に備え、毎日お世話になっているにもかかわらず、おそらく一度も全体を見ることがない器官である「骨」。
しかしながら、「人骨」という資料は土器や木器・石器などの作られた資料と異なり、「過去に実際に生きた人」そのものであり、亡くなった人が生きていた時代を復元する資料としては非常に有用です。どのように生きてどのように亡くなったか、そしてどのように葬られたのかは、当時の風俗や社会構造を考える上で重要な手がかりとなります。
人骨
人の骨はタンパク質の一種であるムコ多糖蛋白質(たとうたんぱくしつ)と多量のリン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、炭酸カルシウムから構成されています。人を含めた脊椎動物の「骨」つまり「骨格」とは、主に腕や足などの体躯を支え、これを動かすための筋肉を支える役割を担っています。また、脳や消化器官などの内臓を保護するための器官でもあります。普段の暮らしを支えているのも「骨」なのです。
骨は人体を構成する器官の中でも非常に固い器官ですが、岩石などとは異なり有機質であるが故、本来は年月とともに朽ち果てしまうのが普通です。しかしながら、埋まっていた状況によっては数千年の時を超えて残る場合があります。アルカリ性の強い砂丘や粘土等の密閉性が高い環境に遺存していた場合、そして残存状況が良好な甕棺墓・石室等に葬られていた場合がそれです。福岡市内でも酸性の強い火山灰層で形成された台地などでは、人骨資料が残ることはなかなかありません。中に何も入っていない甕棺墓や土坑墓が発見される場合がありますが、これは長い年月の中で骨が分解されてしまったためなのです。
博多区博多遺跡群出土 女性人骨 |
「人骨からわかること」
発掘調査などで出土した人骨資料から、現在に生きる私たちはどのような情報を得ることが出来るのでしょうか。発掘された人骨は形質人類学や考古学の専門家によって鑑定・分析がなされます。このような作業の成果により、①年齢②性別③身長④顔つき⑤血縁関係⑥食生活等の情報を得ることができます。また、発掘された状況からは、どのような埋葬方法を用いて葬られたのかを知ることができ、その背景となる習俗や社会の構造まで推定する手掛かりとなります。
では具体的に「人骨」のどの部位からどのような情報を得ることができるでしょうか。①の年齢については、頭蓋骨や骨の成長度合いや歯等の情報が分析対象となります。ぴたりと言い当てるわけではありませんが、何歳ぐらいで亡くなったのか推定することが可能となります。②の性別については、骨盤や頭蓋骨の形状や四肢骨の断面形などから判定することが出来ます。③の身長については四肢骨の長さを元に身長を推定する計算式が確立されています。このような研究を基に各時代毎の平均身長が算出されています。④の顔つきは頭蓋骨の計測値により分析されます。いわゆる「濃い」顔だったのか、「薄い」顔だったのかが分かりますし、時代毎に変化していく「顔つき」を知ることができるようになりました。⑤の血縁関係は古人骨の歯から抽出されたDNA鑑定等や頭蓋骨や歯の形態比較により行われます。一緒に埋葬された複数の人骨の血縁関係を明らかとすることで、埋葬に際してどのような決まり事があったのかが推測できます。⑥の食生活は、人骨や歯に残された様々な安定同位体を分析することにより調べることができます。
以上は形質人類学上での分析となり、「人骨」の持ち主個人と親族関係についての情報が得られます。何歳ぐらいまで生き、どのような病気にかかり亡くなったか、どのような顔つきでどれくらいの身長だったのか、どのような血縁関係であったのかという「名前」以外の個人情報を得ることができます。