茶人の書
令和2年2月26日(水)~令和2年4月26日(日)
茶室の中心をなすのは床(とこ)であり、そこに飾られる掛物(かけもの)は茶道具の第一として珍重されます。茶会の趣向に即して、もっともふさわしい絵や和歌や書が選ばれます。ことに禅僧の手になる墨蹟(ぼくせき)は、一座建立(いちざこんりゅう)の本尊(ほんぞん)として、亭主と客を取り結ぶ精神的な象徴となりました。また、茶人がしたためた手紙も茶を介した交流やその人柄を示すものとして茶席の掛物として好まれました。
本展では、福岡市博物館が所蔵する書跡・古文書コレクションの中から、福岡ゆかりの禅僧の墨蹟とともに、博多(はかた)の豪商茶人・嶋井宗室(しまいそうしつ)と福岡藩祖(はんそ)・黒田如水(くろだじょすい)(孝高(よしたか))らと親しく交わった武将や茶人の手紙などを紹介します。
◆一座建立の本尊~墨蹟の尊重~
茶の湯の世界でもっとも有名な禅語といえば「喫茶去(きっさこ)」(史料1)でしょう。唐代の禅僧・趙州従諗(じょうしゅうじゅうしん)の故事により、禅の公案(こうあん)に用いられますが、茶席では誰にでも分け隔てなく「どうぞお茶を」と勧める真心を示しています。侘茶(わびちゃ)を大成した千利休(せんのりきゅう)の茶道の秘伝を伝えたという『南方録(なんぽうろく)』(史料2)によると、「掛物ほど第一の道具はなし。客・亭主共に茶の湯三昧(ざんまい)の一心得道(いっしんとくどう)の物也。墨跡(ぼくせき)を第一とす、其文句の心をうやまひ、筆者・道人・祖師の徳を賞翫(しょうがん)する也。」と茶掛(ちゃがけ)の重要性が説かれています。雪村友梅(せっそんゆうばい)の「紅炉一点雪(こうろいってんのゆき)」(図1)は、赤々と燃え盛る炉に窓から舞い落ちた一点の雪が即座に溶けて消滅する直前の一瞬を見事にとらえた句です。