知り、愛でる、表具展
令和4年2月1日(火)~4月3日(日)
■自由な表具
日本で独自の発展をみせた大和表具の典型は、「真の真」から「草の草」まで、8つの形式に整理されます(※「草の真」はありません)。「聖観音」(出品19)は「真の行」という格式の高い形式をとりますが、実は1970年に安川電機が制作したカレンダーを平成20年に表装した現代表具です。カレンダーと聞くと驚かれるかもしれませんが、柳宗悦(やなぎむねよし)などの文化人らが愛玩した大津絵も言うなれば印刷物でした。表具には時代ごとの好みがあらわれます。近現代表具の面白みは、自分の好きなものを好きに飾る自由さにあります。最後はそんな現代の表具をご紹介します。
「迦陵頻伽(かりょうびんが)図」(出品20)は中尊寺(ちゅうそんじ)(岩手県)金色堂(こんじきどう)内の荘厳具(しょうごんぐ)の拓本です。色とりどりの裂を継(つ)ぎ接(は)ぎした変わり表具が可愛らしく、極楽浄土のようでもあります。「水墨山水図」(出品23)は裂を活かしたシンプルな丸表具(まるひょうぐ)(文人表具(ぶんじんひょうぐ))で水墨画がモダンに映えます。着物や帯を利用した表具や、いわゆる名物裂を真似た柄もあります。「童」(出品27)の表具裂の取り合わせは、まるで描かれた童子と三毛猫そのものです。お好みの表具はあったでしょうか。
■表具師の仕事――おわりにかえて
新しい表具を仕立てたり傷んだ表具を修理する専門家が、表具師です。その名称は歴史上「装潢(そうこう)手」「表補絵師(ひょうほえし)」「経師(きょうじ)」など、時に併存しながら複雑に変化し、時代ごとに仕事内容も変わってきました。例えば江戸時代後期の「職工図式(しょっこうずしき)」第二巻(図1・出品11)には「経師」が収録され、雲龍図の前で紙をひろげ刷毛(はけ)で糊(のり)を打つ男性が描かれています。現在でも、刷毛や糊は表具師に欠かせない道具です。本展では、福岡市東区の表具店・合屋翠雲堂(ごうやすいうんどう)で当館所蔵掛軸を修復した際の記録映像を展示室内で公開します(筑紫女学園大学博物館学芸員課程企画・福岡市博物館共同編集「表装文化を知る」シリーズのうち第一章)。修復後の資料(出品15)とともに、刷毛(はけ)捌(さば)きや工房の音をお楽しみください。
動画でもわかるとおり、表具師の仕事は多岐にわたります。鎹(かすがい)(出品18)は飯尾楽古堂(いいおらっこどう)(博多区)で使われていた道具の一つで、屏風の紙貼りに用いるものです。なおこの飯尾楽古堂は、合屋翠雲堂の先代が弟子入りした伊賀翠古堂(いがすいこどう)と同じく、山笠絵師として江戸時代から博多の人々に親しまれた三苫氏の営んだ表具店・三苫観古堂(みとまかんこどう)の系譜を引きます。
当館は開館して以来、文化財の修復に理解ある町の表具師の方々と共に、膨大な数の館蔵資料を修復してきました。近年、こうした文化財修復を担える地元の職人が減っています。脈々と受け継がれてきた表装の技術と地域の文化をまた次世代へとつなぐため、いま知恵を絞る必要があります。(佐々木あきつ)