考古学のキホン-古いか新しいかを知るには-
令和5年4月25日(火)~6月25日(日)
Ⅲ 過去の人びとのくらしに迫るために―「一括遺物(いっかついぶつ)」と「編年表(へんねんひょう)」
墓や火災で焼けた住居跡など、発掘調査の結果、短い時間に埋まったといえる状況で発見された出土品を「一括遺物」といいます。一括遺物は、異なる種類の型式が同時に存在していたことを証明します。考古学者は、一括遺物を鍵として、複数の型式組列を組み上げ、ある時代の人々が使っていた道具のセットを明らかにしていきます。
こうしてできあがった、昔の人々の道具のうつりかわりを示したものを「編年表」といいます(図3)。「編年表」があれば、発掘調査で見つかった考古資料の時期を知ることができます。編年表から出土品の時期がわかると、それらが出土した住居や井戸などの遺構の時期を判断できます。これを遺跡全体で行えば、その遺跡で生きた人びとのくらしのうつりかわりをつかむことができるのです。
遺跡のどこで出土したのかという空間的な情報は、考古資料の価値を左右する重要な要素です。考古学者は、遺跡で重要と思われるものを発見しても、すぐに動かしたりすることはありません。あとで検証できるように、写真や図面など記録をとらねばならないからです。
おわりに―考古学の可能性と限界
考古学の基本は、形式学と層位学に基づいて、道具のうつりかわりを把握することです。道具のうつりかわりの背景には、つくる技術の変化だけでなく、機能や使用方法、役割の変化があると考えられます。したがって、これらを研究することにより、技術史だけでなく、道具が使われた場面―農耕や狩猟(しゅりょう)、漁労(ぎょろう)―の変化に迫ることができます。さらに、ある型式の分布範囲は、その型式の道具をつくり使った人々の活動範囲と考えられることから、これらを比較することによって、集団同士の関係などをつかむことも可能となります。考古資料を型式分類し、時系列に並べることから、歴史を復元する研究が始まるのです。
一方で、考古学では明らかにすることが難しいこともあります。たとえば、祭祀(さいし)に使われた道具から人びとの精神世界をさぐるには限界があります。また、考古資料だけでは、ある特定の歴史上の人物の行動を復元することは不可能です。
そういった意味で、文献史学や文化人類学などの研究成果と合わせて総合的に歴史を考えることが重要になります。
(松尾奈緒子)