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No.596

企画展示室4

博多祇園山笠展22/幔幕3 -山笠と幔幕-

令和5年6月13日(火)~8月15日(火)

◆ 個性溢れる意匠
【写真1】十二支裾柄雀踊図幔幕
【写真1】十二支裾柄雀踊図幔幕

 【写真1】は大正10(1920)年に下鰯町(しもいわしまち)(現須崎町(すさきまち)・対馬小路(つましょうじ))で製作された幔幕です。同年、下鰯町は五番山笠大黒流の当番町を務め、その記念に幔幕を仕立てました。幔幕の意匠は、江戸時代に流行した「雀踊り」で、編み笠を被って雀の仕草を真似て踊る侍が描かれています。この幔幕には、福岡大空襲(昭和20・1945年6月)の際に、猛火が迫る中、若者が神社から幔幕を持ち出し、近くの川に飛び込んで難を逃れたという逸話が残されています。

 ほかにも、下呉服(しもごふく)町は「角力取り」、奈良屋(ならや)町は「金魚」、上桶屋(かみおけや)町は「七福神」、大浜町(おおはままち)1丁目は「あやめ」などの幔幕があり、図柄は町の印(しるし)でもありました。

◆ 幔幕の謎解き
【写真2】豊臣秀吉・賤ケ岳の戦い図幔幕 博多町家ふるさと館蔵
【写真2】豊臣秀吉・賤ケ岳の戦い図幔幕
博多町家ふるさと館蔵

 【写真2】は、下奥堂(しもおくのどう)町(現御供所(ごくしょ)町)にあった染物店で製作された方形の幔幕です。幔幕の多くが【写真1】のような縦に布を継いだものであるのに対し、【写真2】の幕は布が横に継がれています。松囃子や山笠、放生会などで使用されたと伝わっていますが、山笠においてはどのように使われていたのでしょうか。

 4枚の布を継いだ幕の右側は、上から製作者の家紋、豊臣家を象徴する千成瓢箪、武将(豊臣秀吉)が描かれており、元は端午の節供に飾られる幟でした。家紋から上は、裁たれて4隅の補強に利用されています。残りの3枚は一続きで、賤ケ岳(しずがだけ)の戦いが描かれています。急遽既存の幕を用いて仕立てたのでしょうか。乳(ち)は4隅に縦横2か所付き、端は紐が通されており、上下左右で固定して使うようです。

【写真3】大正9年8月28日 下奥堂町子供山笠 博多町家ふるさと館蔵
【写真3】大正9年8月28日 下奥堂町子供山笠
博多町家ふるさと館蔵
【写真4】上奥堂町子供山笠 個人蔵
【写真4】上奥堂町子供山笠
個人蔵

 この幔幕の使い方のヒントになるのが【写真3】の大正時代の同町の子供山笠です。道の両側から紐で張った幔幕が写っています。また【写真4】の上奥堂(かみおくのどう)町(現御供所町)の子供山笠では、天幕(てんまく)として用いた様子が写っていることから、この幔幕は子供山笠で使われたものかもしれません。

 ちなみに【写真3】は、標題に「悪魔悉降伏」と書かれており、当時流行したスペイン風邪の影響を受けて建てられた疱瘡山(ほうそうやま)の一種と考えられます。

(河口綾香)
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