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No.573

企画展示室3

鉄のはなし

令和4年2月1日(火)~4月3日(日)

鉄滓からわかる鉄づくりの技術

 鉄滓にもいくつか種類があるようです。「製錬滓(せいれんさい)」とは、粘土で壁をつくった炉を使い、鉱物から鉄を取り出す際に出たものです。読み方は同じですが、「精錬滓(せいれんさい)」は、製錬された金属から不純物を取り除く際に出るもの。「鍛錬鍛冶滓(たんれんかじさい)」という、金属を加熱して加工する際に出たものもあります。私が見つけた鉄滓の中には、スサ(粘土に混ぜてひび割れを防ぐための材料)交じりの炉壁(ろへき)が付着しているものもありましたので、おそらく大部分は製錬滓でしょう。このように、遺跡から見つかる鉄滓を観察すると、そこにどのような技術があったのか、どういう加工を行っていたのかを推定することができます。

 ふくおかに鉄器がもたらされた弥生時代のはじめごろ、人々は熱を利用した鉄づくり・加工技術を持ち合わせていませんでした。そのため、その時期の遺跡からは鉄滓は出土しません。入手した鉄器を使い、それが破損したら石器で研磨・整形して大事に再利用していたようです。鉄斧は、石斧よりも4倍の早さで木を切り倒すことができるそうです(註3)。ただし、「鉄は便利なものだ」とわかっても、鉄器を大量に入手できるわけではなかったため、すぐに石器と置き換わることはありませんでした。弥生時代前期末〜中期初頭には、鉄斧の流通と同時に石斧の生産が増大していたという点は興味深いものがあります。

 やがて、地面を掘りくぼめた小さな炉をつくり、加熱してやわらかくした鉄の素材を折り曲げたり、鏨(たがね)で切って形を整えるようになります。この時に出る鉄の切れ端が、工房と考えられる建物跡の床面に散らばって見つかることがあります。裸足では痛そうだな、当時の人はどんな恰好をしていたのだろうと想像をめぐらせますが、遺跡から服装がわかる資料がほとんど出土しないのは残念なことです。さらに、弥生時代後期には鞴(ふいご)と羽口(はぐち)を使って炉に風を送って高温にし、熱した鉄を叩いて鍛錬する鍛冶が、多くの集落で広く行われるようになり、出土する鉄器の量は増加します。

 さて、加工するための鉄素材はどのように入手していたのでしょうか。中国の古い史料に「三国志(さんごくし)」というものがあります。その中には「(弁辰(べんしん)の)国に鉄を出し、韓・濊・倭皆従いて之を取る。諸市皆鉄を用いて買うこと、中国の銭を用うるが如し。」と書かれており、弁辰(朝鮮半島南部)で産出する鉄を倭人などが取引していたこと、市場では鉄がお金と同じように使われていたことがわかります。製錬技術が伝わるまでは、こうした取引によって得た鉄を使って鉄器を作っていたようです。

 古墳時代の後期になると高温の炉を使った製錬が行われるようになりました。いよいよ鉄づくりの始まりです。金武(かなたけ)古墳群(西区)からは墓道(ぼどう)などから製錬滓が見つかっています。古墳に鉄滓を供える行為は、供献鉄滓(きょうけんてっさい)と呼ばれ、福岡市西部でも古墳時代の終わり頃に最も盛んになります。お墓にゴミを供えるなんて、現代の私たちには理解し難いことです。鉄滓は廃棄物、と先ほど言いましたが、古墳時代の人にとっては、それだけではない、私たちとは違う価値観があったのかもしれません。

民衆の鉄、王の鉄(註4)
鍛冶道具が副葬された墓(徳永I-3号墳)
鍛冶道具が副葬された墓(徳永I-3号墳)

 鉄滓以外にも、古墳に鍛冶道具を副葬する例があります。製鉄・鍛冶技術が広まったとはいえ、製鉄の技術、鉄器づくりを掌握(しょうあく)・管理していたのは当時の支配者層でした。鉄滓や鍛冶道具を墓に供える行為は、「鉄製品を所有・使用する」「鉄を生産・加工する技術を持っている」という集団のアイデンティティを示すものなのでしょう。

 そのほかにも、古墳には武具、馬具、農工具など種類も量も豊富な鉄器が副葬されています。これらは鉄器という形をとった威信財であるといえます。一方で、集落内の住居跡などから見つかる、一般的な人々が使用していた鉄器は、古墳に埋葬される支配者層の人々が持っていた鉄器とは性格が異なり、斧や鎌、鋤(すき)・鍬(くわ)先など主に実用的な農工具です。人々の間に鉄の生産・加工技術が広まるにつれて、土地の開発が進み、農業生産が拡大し、人口も増えていきました。

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